ある日の美術

仙台にいて絵を描いたり書をやりながら、もろもろ美的なことを研究してます。

木村さんの話

木村さんが言うには

「大豆を植えたら、一番最初に出るのはなんでしょう。芽ではありません。根です。大豆に限らず、ほとんどの種がそうです。
まず根が出てから、芽が出る。

人間は地面の上から見ているから、どうしても土から顔出す芽にばかり注目してしまいます。だけどよく考えてみれば、根の方が先なのは当たり前です。成長するにはまず、根っこから水や養分を吸い上げなければいけないのです。これは種のときの話だけではありません。自然栽培に切り替えると、稲でも大根でも、伸びが悪くなったように見えます。

その差は歴然としています。田植えをしてからしばらくは、慣行農法の稲の成長のほうが明らかに良好です。
けれどそう思うのも、地上の部分だけを見ているからなのです。自然栽培の稲の成長が遅れて見えるのは、地下の根を先に伸ばしているからです。根が先に出るだけじゃなくて根が先に成長する。

 


根をひっこ抜いてみれば一目瞭然です。貧弱に見える自然栽培の稲の方が、根っこは遥かに発達しているのです。細かいひげ根をびっしりと生やした、太くて長い根がびっしりと生えています。
この地下の目に見えない部分が大切なのです。根を十分に発達させた後は、いよいよ地上の葉や茎が成長します。成長が悪いように見えた自然栽培の稲は、ある時期を過ぎるとどんどん成長して、あっという間に普通の稲を抜き去ってしまいます。
根っこをまず先に伸ばすことを考える。
それはリンゴにも人間にも当てはまることだと思います」と。
(「土の学校」より抜粋/木村秋則著/幻冬舎

 見えない部分が大事なんだね。絵も見えない部分が大事だ、と思う。
絵を毎日、毎日あらたな気持ちで描くためには色々と工夫することがある。僕は絵として描く作業より、絵を描くためにする準備のほうがはるかに多い。作品として絵を描くのは絵描きのすべての仕事が百あるとすれば、そのうちの一つに過ぎない。ただ描いていくだけでは明日描く絵が新しくならない、と思うから。なにしろ、なにかしらを見つめる、観察する仕事だけでも日が暮れてしまうんだ。