昇華の時
子どもの頃、誰かの文字を真似て書いたっけ。
今も、誰かの文字を臨書する。
臨書というのは何かしらの文字を見ながら書いていくこと。
覚えたら見なくてもいいけれど。
文字は微妙で本当に覚えたのかどうかさえ定かじゃないけどね。
ある時は形を真似て絵的に書いていく。
またある時は筆脈を追って速度感と、それに伴う感覚を体験していく。
文字のバリエーションだけを感じ取ることもあるし。
大きく、小さく、ゆっくり、素早く
何度も何度もやっていく。同じことをやってて、もう何十年になるのかな?
何度もやって飽きたなぁ、
と思う頃突然、飛躍の瞬間が訪れる。
たしかに訪れた。
幸福感だけが身の内にいっぱいになってきて、頭が真っ白になってきた。
次から次へと発見と希望が満ち溢れる。
つぎつぎ発想の扉が開かれて。
見えてた世界も一変した。
あれ?本当はこんな世界だったのか?
これじゃ楽しくなって止まらないじゃないか。
そうなったら、そうか。
それでようやく自分の文字を書く時が来たのかな?
ここまで来るには、あぁ、なんて長い道のりなんだろう。
しかし、扉が開いていたのはわずかな瞬間だった。
おしっこしたくて離れただけなのに。
すこし時間が経つと扉は固く閉じていてもう入れなくなって。
地団駄を踏んでうなだれた。