歩む速度
北原白秋は「詩の香気と品位といふことを私はいつも考へる。これを総じて気品と云ひ気韻といふのはそれである。
これは巧みて成るものではない。
詩人その人のおのづからな香気と品位とがそのままそれらを詩に持ち来すのである」と。
更にまた「外に現はるるはその余香である」と。
そして「芸術の気品は美の香気の気品である。最上の気品若しくは気韻は世の善悪の上にある」と。
私はそれを白金之独楽に見ました。
あぁ、確かに作品というものはそうだと思います。芸術は何であっても相通じているものですから。
詩の話であっても私は絵の話として聞いています。
描かれた絵には計らずも、描いた人の香気と品位が漂っている。
私はいつも、それが手業を超えて見えてくるような作品にしたいと思っています。
日頃練習に明け暮れるのはその為です。
けれどもその度に振り返れば来た道の短さに驚き、行く道の遠さに愕然とするのです。今も正にそうなのです。
蟻より大きいのに歩く速度は蟻の如くなんですから。